さっきアマンダさんに作ってもらったスポンジケーキなんだけど、お店で出してるお菓子とおんなじ型で焼いたもんだからいっぱいできちゃったんだよね。
だから僕とアマンダさんは、それを持ってみんなのとこに帰ってきたんだ。
「あら、ルディーン君を引っ張っていったと思ったら、さっそく店のお菓子の改良をしてきたのね」
そしたらそのお菓子を見たルルモアさんが、そう言いながらアマンダさんが持ってたバスケットからお菓子を一つとってパクリ。
「あっ、それは!」
「凄いじゃない! 粉を入れてからあまりかき混ぜないだけで、これだけ劇的に味が変わってしまうなんて」
一口食べてみたルルモアさんが、今までのより凄く美味しくなてるねって褒めたもんだから、それを聞いたお姉ちゃんたちもすぐに手を伸ばしてパクリ。
「ほんとだ! すっごくふわふわ」
「これ、ルディーンが作るパンケーキよりおいしいよ! さすがお菓子屋さんだね」
スポンジケーキってとってもふわふわでしょ? そんなお菓子をお姉ちゃんたちは食べた事なかったから、いっぺんに気に入っちゃったみたい。
だから僕が作るのより、料理人さんのアマンダさんが作ったお菓子の方がやっぱりおいしいんだねってニコニコしながら言ったんだ。
でも、そんなルルモアさんやお姉ちゃんたちの声を聴いて、アマンダさんはしょんぼり。
「どうしたのアマンダさん。そんな顔して」
「違うんです。それは私が作ったお菓子ではありません。ルディーン君が考え、その指示に従って出来上がったものなんです」
それを見たルルモアさんが、どうしたの? って聞いたんだけど、そしたらアマンダさんは悲しそうに泣きながらこう言ったんだ。
「卵のビネガーソースって知ってますか?」
アマンダさんは、今お店で出してるパンのような焼き菓子をどうやって思いついたのかを聞いてほしいって言いだしたんだ。
だから僕たちはいいよって言ったんだけど、そしたらなんでか急にマヨネーズの話を始めちゃったんだよね。
「話くらいならね。確か作れる料理人が少ないから、貴族や大商会のパーティーくらいですか出されないって言うソースの事でしょ?」
「ええ。あのソースを作るのにはそれ相応の筋力と持久力が必要なので、残念ながら私は作る事ができません。でも、その作り方は知っていたんですよ」
アマンダさんはね、自分が作れるかどうかなんて関係なく、いろんなお料理やソースの作り方を勉強するのが好きなんだって。
だから卵のビネガーソースの作り方も、すっごい料理人さんに頼み込んで教えてもらったことがあるらしいんだ。
でね、そのソースの作り方を教えてもらった事で、アマンダさんはお店に出してるパンみたいなお菓子の作り方を思いついたんだってさ。
「あのソースを作る時、あらかじめ調味料を混ぜた卵を、空気を含ませるようにして手早くかき混ぜておく必要があるんです。そしてさらにそこから油を少量ずつ入れてさらに長時間かき混ぜ続ける事でソースが完成するんですよ」
「へぇ。確かに、聞くだけだかなり体力がいるって事が解るわね」
うちでは僕が作った魔道泡だて器があるから簡単だけど、ほんとならロルフさんちで料理人をしてるノートンさんみたいにとっても大きい男の人じゃないと作れないって言ってたもんね。
そんなソースだからアマンダさんには作れないんだけど、それを作るまでの間の作業を見て何かお菓子に使える物はないかなぁって考えたんだってさ。
「確かに私の体力では卵と油を混ぜるなんて事はできません。でも卵に空気を含ませながらかき混ぜる事は出来たんですよ」
アマンダさんが作ったパンみたいな焼き菓子は、その卵にお砂糖とふるった小麦粉を入れて練ったものを型に入れて、それをオーブンで焼くことで出来上がるそうなんだ。
って事は、やっぱり僕が考えてたのとあんまり変わんない作り方だったんだね。
「私はあのお菓子を作り出した時、とても喜びました。だって他では食べた事が無い、初めて生まれたお菓子なのですから」
「そうでしょうね。噂では美食家で名高いこのイーノックカウの領主様も、この店のお菓子を取り寄せて楽しんでいるって噂ですもの」
「ええ、それは本当の事です。よくご注文を頂いて、私がお屋敷まで届けておりますから」
「本当に領主様も口にしてるんですね」
噂を聞いたことがあるよって言ったら、それにオーナーさんがほんとだよってお返事したもんだから、ルルモアさんはびっくり。
あれはそれほどのお菓子なんだねって、アマンダさんににっこりと笑いかけたんだ。
「ええ。ついさっきまでは、私もその事に誇りを持っていました。でも、そこで満足してしまったのが、私の限界だったのです」
でもね、アマンダさんはそう言ってしょんぼりしちゃったんだ。
「こらこら、料理長。ここはお客様にお菓子を食べて喜んでもらう場所なんですよ。そんな顔をしてどうするんです」
しょんぼりして、そのまま黙っちゃったアマンダさん。
そんなアマンダさんの肩を、オーナーさんはそう言いながらポンって叩いたんだよね。
「先ほどのお菓子によほどの衝撃を受けたのは解る。だが、それも君の菓子を食べたからルディーン君が思いついたのだろう? ならばそれを誇ってもいいのではないかな?」
「そうですよ。言わばこのお菓子の基礎を作り出したって事ですもの。ルディーン君がそれをさらに改良したからと言って、それであなたの功績が無くなる訳じゃないのよ」
アマンダさんがやった事はすごい事なんだよって励ますオーナーさんとルルモアさん。
そんな二人に言われて、アマンダさんもちょっと元気になったみたい。
「そう言われると、少し気が楽になりますわ」
アマンダさんはそう言うと、顔を上げて、
「それに、私たちでは思いもつかない二つの焼き菓子を作り出したルディーン君ですもの。私の作ったものをさらに進化させたとしても、別に驚く事ではないのかもしれないわね」
僕に笑いかけながら、こんな事を言ったんだよ。
でもね、スポンジケーキは別に僕が考えたお菓子じゃないよね?
だから僕、あわてて違うよって言おうとしたんだけど、
「アマンダさんが答えを出したんだから、ルディーンがこれ以上何かを言う必要はないのよ」
そしたらお母さんに、こう言って止められちゃった。
そっか。お母さんがそう言うんなら、きっとそれがあってるんだよね。
スポンジケーキの作り方は前の世界で見てたオヒルナンデスヨで教えてもらっただけなんだけどなぁって思いながら、でも言っちゃだめなら内緒にしとかないとねって、僕はお口を両手でふさいだんだ。
う〜ん、アマンダさんがスポンジケーキの何に衝撃を受けたのかまで行かずに終わってしまった。
でもまぁ、話にキリが付いたので今回はここまでという事で。